ビチャツヤなやつがいる部屋

 最近、魚を飼い始めた。

 ベタという魚で、和名は闘魚。気性が荒く、2匹以上を同じ水槽に入れると、どちらかが死ぬまで争い続けるらしい。だから、ひとつの水槽につき1匹しか飼えない。

 その代わり、水の中の酸素が少なくなると自ら水面に口を出して空気を取り入れてくれるし、熱帯魚だけど冷たい水にもある程度耐えられる鈍感さを持っている。そのため、エアーポンプやフィルターなど、細々とした道具が必要なく、魚飼育初心者にふさわしい魚だという。

 昔からいつか魚を飼ってみたいという気持ちがあって、初めて飼うなら初心者にも優しいベタを飼おうと心に決めていた。先週の半ば、もう何もかも嫌になって、仕事帰りにペットショップの熱帯魚コーナーに寄って500円で買った真っ赤なベタ。大きく長いヒレを揺らしながら泳ぐ様子は、炎がチラチラと燃えるようで綺麗。水の中に炎があるようなアンバランスさがとても可愛いと思って、真っ赤なベタにした。

 2日くらいはヒーターなしで、自力で水の温度を調節していたのだけど、水温が下がるのってめちゃくちゃ早い。魚が寒い思いをするのがかわいそうで(名前がないのでさかなと呼んでいます)、結局Amazon prime便で魚用のヒーターを買った。私自身は電気代がもったいないから、エアコンをケチって着る毛布で耐えて震えながら部屋にいるのに、魚の水槽はいつも26度のぬくぬく快適水温に保たれている。そりゃスイスイ元気に泳ぎますわ。

 水が汚いのもかわいそうで、毎日スポイトを使って少しずつ水を変えている。しかも、温度が急に変わるとびっくりしちゃうかな?と思って、変える水も温めてから入れている。至れり尽くせりだよ。私自身の部屋は床がギリ見えるくらいの有様なのに。

 毎朝、化粧をしながら魚の餌を4〜5粒くらいあげる。水面にパラパラと餌の粒を落とすと、魚が「餌‼️」とでも言わんばかりに元気に水槽の上の方に上がってくる。

 近くで観察してみて初めて気づいたのだけど、魚って上を向いている時の目が本当に可愛い。明らかに「上を向いている!」という目をするのだ。マジで🙄←この顔。上を見てる時以外は正直どこを見ているのかよくわからないのに、上を見ている時だけ明らかに上を見ている。餌を見ている。それがめちゃくちゃ可愛くて、わかりやすすぎワロタ☺️と思いながら餌をあげている。

 魚を飼ってみて、自宅にアクアリウムを作る人の気持ちがよくわかると思った。魚そのものが可愛いのはもちろんのこと、そもそも家に水の塊(わたしは水槽を見ると、水の塊があるなと感じる)があることがとても愉快だ。しかもその水の塊の中に、自分とは全く違う生体の生き物がいる。愉快すぎる。

 実家にもう19年猫がいるが、猫は私たちと同じように陸で肺呼吸をして生きているし、毛があるし、反応がわかりやすいから、いつのまにか生活に溶け込んでいる。猫が家のその辺に寝てるのを見て、異質な生き物がいるな!とは思わなかった。

 でも魚には毎日思う。異質すぎるだろ、と。ビチャビチャでツヤツヤで、水の中でしか生きられない生き物がワンルームにいると、めちゃくちゃおもしろいのだ。異星人と暮らしているような感じさえする。部屋に突然現れた水の塊と、その中にいる自分と生き方が違いすぎる生物。魚を見ていると、今魚とわたしが同じ部屋にいることが不思議に思えてくる。あまりに現実味がない。

 小さい頃から水族館が好きだけど、水族館は、この不思議な感覚と、それを見ている自分という違和感を楽しめるから好きなのかもしれないと思った。その感覚を家で味わえるのが嬉しい。水槽をじっと見ている時、異世界をのぞいている気分になる。

 魚は撫でられないし、鳴かないし、喉も鳴らさないし、抱っこもできない。でもそこにいるだけで愉快で、可愛い。飼ってよかったなと思う。うちに来てくれてありがとね。生き方全然違うけど、それぞれ仲良くやっていこうね。